2023/08/12

HPL Processor Ultimateの使い道




NovoNotesさんからHPL Processor Ultimateプラグインが発売されました。

同じくHPLが実装されたNovoNotes 3DXとHPL Processor UltimateとのHPLの位置づけの違い。

3DXは音作りのためのいわばエフェクターとしての側面を持つバイノーラルであり、
HPL Processor Ultimateは完成したチャンネルベースをバイノーラルに変換するコンバーターです。

3DXは下の絵の様に、Mixした7.1.4chをバイノーラル化する際に、Scale機能で左右、前後、上下のバランスを伸縮させることができます。
さらに全体を前後や上下にずらすことが出来、本来のMixバランスから聴こえ具合を調整するエフェクターとして使用出来ます。


通常の状態

Scaleで前後左右上下を広げ、全体を少し前方と少し下方へ移動させた状態


それができるのは、各chが定まっていないオブジェクトの状態であるためで、その分音像はHPL Processor Ultimateと比較するとシャープではありません。

HPL Processor Ultimateはそうした調整は全く行えず、その代わりにベストなスピーカー配置で調整されたスタジオの如く、ヘッドフォンにMixそのものを色付けせずにシャープな音像で表現するマルチch→バイノーラルのコンバーターとして働きます。

スタジオの如くと言いましたが、どこかのスタジオをキャプチャーしたと言う意味ではありません。それだと色付けになります。
スタジオワークを可能にするリファレンスとして使用できるニュートラルな空間を持つという意味です。



これまでに日本音楽スタジオ協会JAPRSによる日本プロ音楽録音賞にて

第21回の
「飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラコンサート2013」より
「プロコフィエフ:交響曲第1番 古典交響曲ニ長調 作品25
 第一楽章 Allegro」
飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ

第22回から第26回まで連続受賞されるエンジニア沢口真人氏が手掛ける作品

第26回に22.2chをバイノーラルMixで制作し受賞した「Lenna」Miyu Hosoi

第27回のImmersive部門最優秀賞の
「冨田勲・源氏物語幻想交響絵巻 Orchestra recording version」(RME-0015)より
「桜の季節、王宮の日々」
 冨田勲 / 藤岡幸夫 指揮・関西フィルハーモニー管弦楽団

など、これらの作品はすべてHPLバイノーラルが採用され音源化されており、そのプロセッシングに使用されていたのがHPL Processor Ultimateと同じHPLバイノーラルプロセッシング技術です。

また、NHK、WOWOW、中京テレビ放送、ニッポン放送ではこれまで主音声でHPLバイノーラルの番組を放送した実績があり、スピーカーでの再生も許されているバイノーラルプロセッシングと言われています。


そうした様に、高性能なバイノーラルコンバーターとしてのHPL Processor Ultimateの役目は、2ch、5.1ch、7.1.4ch、22.2chといったチャンネルフォーマットでMixされた音声をバイノーラル化し、制作時にモニタリングしたり、音源としてリリースしたりするのが主となりますが、HPLプロセッシングを生み使い続けている自分が普段どの様に利用しているのかを紹介しますので、HPL Processor Ultimateの使い道について参考にしてみてください。



HPL Processor Ultimateの使い道

#1
2ch~22.2chまでのMixをバイノーラル音源化しリリースする

特にサラウンド作品は広く一般に聴いてもらうことができません。
上記の受賞作の様に、7.1.4chなどで制作された音楽を仮の姿ではあるものの聴いてもらうためにはバイノーラル化が必要です。
しかしAppleによる空間オーディオなどリスナーの手元でのプロセッシングによるバイノーラルの質にはエンジニアとして納得できない面があったり、音響製品を指定されたりする環境は広く一般に聴いてもらうという思考に反するものです。
そのため音楽作品を大切に扱う人達を中心にHPLによるバイノーラル音源化がなされてきました。


#2
2ch~22.2chまでのMixモニタリング

スタジオに入る前のプリMixをHPL Processor Ultimateを使いヘッドフォンで行う。
DAWのモニターアウトに常時HPL Processor Ultimateを挿して置けば、自宅などでもサラウンドのプリMixを行なうことができます。
スタジオでそのMixを実際にスピーカーで展開すると、「同じ」部分と「違う」部分に気付きます。
これは何度かその体験を繰り返すことで慣れていきます。
スタジオもHPL Processor Ultimateもニュートラルな音場であるため、その補正は正確に身につきます。


#3
Mixチェック

バイノーラルモニタリングの利点は完全なリスニングポイントに常に居れることです。
それを活かしてのヘッドフォンMixや、スピーカーMix後のバランスチェックにも使用出来ます。
つまり、スピーカーがあるにも関わらず、あえてヘッドフォンでスピーカー再生バランスをチェックしてみる、という使い方です。

これは特に2chで有効です。
L/Rに対し完全なセンターに居る状態でのLRバランスやセンター定位の確認。

バイノーラルにしなくても確認できると思うかも知れませんが、バイノーラル化されていない2chのヘッドフォンサウンドは、そもそもMixバランスが大きく崩れています。
2Mixのバランスがヘッドフォンでも整うHPLバイノーラルでのスピーカー再生バランス確認は有効です。
特にHPLは他のバイノーラルよりもセンターの音が段違いに整っています。
ヘッドフォン、イヤフォンで音楽を聴くケースの多い現代では、この様な使い方は結構重要だと思っています。


#4
ライブ会場でのモニタリング

スピーカーモニタリング環境の悪い状況下ではHPLのヘッドフォンモニタリングが役立ちます。
FOHはもちろん、バックステージなど暗騒音の多い中スピーカーで繊細な音をモニタリングするのは難しく、それであればヘッドフォンでスピーカー再生バランスをモニタリングした方が良かったりします。
もちろんサラウンドMixであれば、仮設でサラウンドモニター環境を作ることがすでに困難なケースも多いことでしょう。
無論、そのバイノーラルMixをそのまま配信に回すこともできます。

ちなみにHPL Processor Ultimateを使う場合は、当然PCベースのシステムとなりますが、中継車への導入などハードウェアベースを望む場合は、HPLプロセッサーのAirfolc RA-6010-HPLを同様に使用することが出来ます。





#5
舞台やライブの現場で

舞台やライブの仕込みでは、音を出していい時間はタイムテーブルで決まっています。
しかしHPL Processor Ultimateを使用すれば、待ち時間ヘッドフォンによるMixの修正作業などが行なえ、ゲネプロまでの限られた時間内でより完成度の高い音響を作り上げることが出来ます。
リハを録音して、待ち時間中にその音源を使ってサラウンドMixを修正していく、と言ったことをよく行います。

会場が広い場合は、先に説明した3DXのScale機能を使って空間を広げたバイノーラルモニタリングの方が合う場合もあります。


#6
アーカイブ

以前、サンレコの記事 https://www.snrec.jp/entry/interview/roth-bart-baron_haku-binaural で「思い出のバイノーラル化」をしているとインタービューに答えたことがあるのですが、関わったサラウンドプロジェクトは必ずバイノーラル化して持っています。
後から2次利用の話が出た場合はもちろん、何かの確認目的のために誰かが音源を聴くと言った場合に、サラウンドだと聴いてもらうことや使ってもらうことが簡単に出来ません。
HPL Processor Ultimateでバイノーラル化した音源を保管して置けば、様々な要望に対応することが出来ます。

ティザー動画を作ると言った場合も、サラウンドのコンテンツであるならば動画もバイノーラルにしておきたいものです。





#7
Atmosの音源や配信を試聴する

普段YouTubeの音楽ライブもHPLバイノーラル化して視聴しています。
その方が映像との距離感が合うので。
今後はAtmosでも配信も増えると思うので、そうした配信に対しブラウザの出力をループバックしHPL Processor Ultimateの入ったプラットフォーム送ればサラウンドで視聴することができます。
もっとも、KORG Live Extremeでの配信であれば、HPLで配信されていますので、そのままブラウザで視聴できますが。

https://www.live-extreme.net/hpl



#8
プライベートで

CD、サブスク、YouTube、ラジオ、テレビ、可能な限りHPLを通して視聴しています。
2Mixがヘッドフォンにおいても正しいバランスで再生されるので、本来の音で音楽が聴けるというHPLのコンセプトがありますが、それはもちろんのこと、映像コンテンツであれば通常は画面に対して音が耳元でなる不自然さから解放されますし、ラジオのようにモノラルでトークであっても聞きやすく、長時間聴いても聴き疲れないと当初から言われています。

ブラウザなどからHPL Processor Ultimateを挿せるプラットフォームにループバックするなどのハードルはありますが、一度HPLで慣れてしまうと戻れないです。
ユーザーさんの中には音楽音源をすべてHPL化したものをプレーヤーで持ち歩いている人もいらっしゃいます。




以上、ざっと思い出した使い方になります。
他にも思い出したら加えます。

HPL Processor Ultimateは単純なバイノーラルモニタリングプラグインですが、そうしたツールは様々な使い方に順応するものです。
是非工夫して使ってみてください。


最後に、
2014年にHPLバイノーラルプロセッシングを作ってから、立体音響制作のスタンダードツールとして開発されたNovoNotes 3DX、高画質高音質配信のKORG Live Extreme、放送局など設備用として開発されたAirfolc RA-6010-HPL、そして今回のHPL Processor Ultimateのリリースにより、自分が立体音響制作に必要だと考えるバイノーラルツールが一通りリリースされたことになります。

自分の目線から、音楽制作のためのバイノーラル技術はあまりにもいい加減なものに映っています。

エンジニア、プロデューサー、音楽関係者の皆様、Dolby Atmosなどのイマーシブオーディオ制作を行う際には、ヘッドフォンは空間オーディオ任せにしてしまわずに、HPL Processor Ultimateを使ってヘッドフォン用の完成音源を作ってください。
そして出来ればそれを流通させ、本当の意味で誰でも楽しめるイマーシブオーディオ作品をリリースしていただけたら幸いです。





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