2024/12/24

Atmos作品をヘッドフォンMixするにあたり

Mixed with HP
(現在から)未来を見据えヘッドフォンMixでのイマーシブオーディオ制作を推し、
そうした楽曲をアップしていくWebプロジェクトをアーティスト、オオウチアラタ(Philtz)氏が進めています。

サイトでは、楽曲ごとにProcessor(Mixモニタリングに使用するバイノーラルプロセッシングの種類)やヘッドフォンとスピーカーのMix使用率などが表記されていて面白い。




単純に「ヘッドフォンやイヤホンで聴くことの多いコンテンツ」をスピーカーでモニタリングしMixしていることへの疑問、そこに真っすぐ向いたこのプロジェクトには好感を持ちます。

このプロジェクトは今のところ、Dolby Atmos作品にフォーカスされています。


さて、
ここで気になるのが
皆さんどのようにしてヘッドフォンMixしているのか?


Atmosで空間オーディオに向けた納品ファイルを作るには、Atmos Rendererのバイノーラル機能でMixする必要があります。

これは、7.1.4などでスピーカーMixしたものをバイノーラル化する機能ではありますが、スピーカーのサウンドに寄せる、あるいはヘッドフォンサウンド用にreMixする空間オーディオ専用の作業という意味合いが強い。

すでにスピーカーでMixされたバランスに対し、ベッドやオブジェクト個別にNear/Mid/Farといったモード設定で味付けすることがそれにあたります。


言い換えると、始めからスピーカーを使わずにAtmos Rendererのバイノーラル機能でモニタリングしMixされた楽曲は、7.1.4のスピーカーシステムでは再現性が無いということに。



あらかじめスピーカーでMixした楽曲を、Atmos Rendererのバイノーラル機能で "スピーカーのサウンドに近づける" という目的でNear/Mid/Farを調整し仕上げたのであれば、そのヘッドフォンMixバランスによる7.1.4サウンドは、スピーカーで再生したとしても似た感じになるかも知れませんが(恐らくそうはならない)、始めからヘッドフォンMixで制作した7.1.4サウンドは、ヘッドフォンで聴いてはじめて有効となるNear/Mid/FarのMixバランスを含んでスピーカーから再生されるだろうし、そもそもバイノーラルのバランスが影響したサウンドになってしまうだろうと推測します。


Atmos Rendererのバイノーラルによる空間は横に広く、前後や上下は狭い。

よってそのバイノーラルMixによる7.1.4をスピーカー再生すると、逆に左右の空間が詰まって聴こえ、フロントセンターあたりのサウンドはごちゃっとするだろう。

あるいはそのまま、つまりスピーカーで聴いても横方向が遠くなり前後が近くなるのか...

その辺りはNear/Mid/Farの設定によっても変わると思う。

こうしたことは、スピーカーMix → ヘッドフォン再生、の一方通行であれば問題とならない。

始めからヘッドフォンMixの場合も、ヘッドフォンMix → ヘッドフォン再生、であれば問題が無い。


自分は、ヘッドフォンMix → スピーカー再生、も普通に行うことがあるので、そうしたケースでのAtmos Redererの様なバイノーラル機能によるMixはタブーと言える。


スピーカーで聴かなくても、恐らくスピーカー配置のバランスを正しくバイノーラル化しようと設計されたHPL Processorを通してヘッドフォン再生してもその問題は起こると思います。


そう考えると

HPL ProcessorでヘッドフォンモニタリングしたとされているAtmosの楽曲は、果たしてちゃんとHPLバイノーラルでMixされているのか? ということ。


MixしているDAWでAtmos Rendererに送る前にHPL Processorを使用してモニタリングしているのなら問題は無いでしょう。

(それをAtmos作品と呼ぶかどうかは別)


Atmosといったらベッドとオブジェクトの構造によるもの。

それらはAtmos Rendererで7.1.4などにフォーマット化されるので、その7.1.4マルチch出力をHPL Prcessorに送りヘッドフォンモニタリングしてMixしているのならOK。

その出力を書き出せば7.1.4のAtmos作品をHPLバイノーラル化したことになる。

またその7.1.4出力をスピーカーで聴いたとしても、割とまともに聴けるはずです。


もし、Atmos Rendererのバイノーラル機能でモニタリングしながらMixし、そのマルチch出力をファイル出力するためだけにHPL Processorへ送っているとしたら、それは上記したようにバランスの悪い7.1.4サウンドをHPLバイノーラル化した作品となってしまう。


そんな間違いはしないと思いますが...


ちなみにMixed with HPで紹介されている作品は、Atmos Rendererのマルチch出力をHPL Processorでモニタリングしながら、つまりスピーカーモニタリングの代用とする正しい方法でヘッドフォンMixしているとのことです。



そして

スピーカーの代わりにHPL Processorを使用しヘッドフォンMixした場合でも、空間オーディオ用のMix作業はやはり別途必要となる。

そのくらい空間オーディオに向けた制作が特殊だということ。

空間オーディオのリリースをやめてもHPL Processorを使用したバイノーラルサウンドをリスナーに届けることは簡単(むしろその方が多くのリスナーに届く)なので、イマーシブオーディオ制作自体をやめてしまう必要は無い。
どんどん作って欲しい。

何しろ、スピーカーMixしようがヘッドフォンMixしようが、HPL Processorを使用するならば、Mix作業を一度で済ますことも可能なのだから。


最も良いと思うのは、
Atmosなどのフォーマットを気にすることなく、DAWとHPL Processor(あるいは3DX)でヘッドフォンMixする自由な立体音響制作であり、その作品をAtmosでリリースしたいならAtmos Rendererにそれを録音すれば良いし、空間オーディオでもリリースすれば良い。


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