2022/11/03

Ambience Enhancerをどう使う?



2022年10月
NovoNotesよりAmbience Enhancer Standardが発売されました。

2chのみ対応のAmbience Enhancer liteはすでに先行発売されており、多ch対応(24chまで)版がStandardになります。

このAmbience Enhancerがちょっと変わった仕組みであるため、立体音場の表現力について理解が無いとすぐにこのプラグインの味を引き出せないかも知れません。
アンビエント成分を調整することで、響きを減らしたり増やしたりし空間を変える。
2chステレオ音源に対するAmbience Enhancer liteの効き具合はそのようなイメージでしたが、Ambience Enhancer Standardを使用する立体音場では、同じ技術であってもその効き具合は変わります。


NovoNotesのAmbience Enhancerとは?

エンハンスとしてイメージするものは、周囲、環境、空気感、残響、といった音の空間性の部分かと思います。

NovoNotesの説明では
「Ambience Enhancer は入力された音声を分析して、アンビエンス成分と直接音に分解します。」
となっており、そのアンビエンスにだけ何かしらの処理を施すことで空間が調整可能としているプラグインです。

”残響をコントロール”と簡単に説明されているのを見かけますが、それは違うと思います。


まず、ホールで観客がざわついているAmbisonicsの音源をAmbience Enhancer Standardを通して聴いて見ましょう。

音源はA-formatマイク録音された素材で、それをB-format変換(1次Ambisonics) → 8chキューブデコード(3DX)した立体音場の音源を使用します。
その8chキューブの立体音場に対し、Ambience Enhancer Standardのパラメーターを調整してみます。


このような処理で検証



まずはAmbience Gainを-3dBに設定してみます。
アンビエンスを-3dB減らすということです。
アンビエンスを減らした分、Output Gainを3dB上げてみました。
これは何となくそっちの方がいいかなと思っただけで、正しいかどうかは分かりません。

試聴音源は、Ambience Enhancer Standardを通した8chキューブの立体音場を3DXでHPLバイノーラル化していますので、ヘッドフォンで試聴してください。







次は逆にアンビエンスを3dB増やしてみます。
Ambience Gain = +3dB (応じてOutput Gainを-3dB)







いかがでしょうか?
かなり変わりますよね?

もう一つ別の音源で試します。
こちらもデモでよく使う美術館で大きな音や足音をAmbisonics収録したものです。
同様にしてHPLバイノーラル化しています。
Ambience Enhancer Standardの設定は同じです。

まずはAmbience Gain = -3dB




続いてAmbience Gain = +3dB





いかがでしょうか?

Ambience Enhancerでアンビエンスを増減させることは、単に残響を盛ったり抑えたりしているのではなく、空間の広さそのものに変化を与えていることが分かると思います。

絵にするとこのような感じです。
UIの表示とは逆のようなイメージがあります。


点線が元の空間の広さ




このように元の空間よりも広く表現する、あるいは逆に狭く表現する、と言った使い方が出来ると思います。
ちなみにAmbisonicsの録音源に対しては、Ambience Gain +-3dBが元の空間を崩さずに調整できる範囲だと思います。


録音したAmbisonicsの音源では全体にAmbience Enhancerを使うことになりますが、3DのMixを行う上では、より遠くに感じさせたい音、より近くに感じさせたい音、それぞれに異なる設定のAmbience Enhancerを使うことで奥行きにさらなる立体感を与えることが出来そうです。


そして、空間が伸縮すると言うことは、そこにある音の距離感も変わります。

こちらはパルス音を使ってAmbience Gainを調整している動画です。
このパルス音のサンプルもただのステレオ音源では無く、3DXを使って8chキューブの立体音場の右に定位させている状態です。
Ambience Gainを小さくすると音が中心に寄って来て、大きくすると離れていくのが分かります。
パンニングしているのでは無く、空間の伸縮によるものです。





これは逆に言うと、Ambience Enhancerでは距離を変えずにアンビエンスのみを調整することが出来ないということになります。
DryとWetのバランス(直接音とアンビエンス成分)を調整することが出来ませんので、元の音像の距離感は変えたくないのであれば、Dryのトラックを用意してMixすると言った工夫も必要なケースが出てくるかもしれません。


3D Mixの例として、立体音響ラボのジングル(Miyu Hosoi, evala)を聴いてみましょう。

まずはオリジナル。





続いてAmbience Gainを-6dB。





Ambience Gainを+6dB。







Ambience Gainを+にする音、-にする音、をMixの段階で使い分けたり、Ambience Gainの値をオートメーション化していくことで、遠近の表現をかなり増せると思います。

ここまでで、Ambience Enhancer Standardは空間伸縮ツールであることが分かったと思います。


最後に、その他の機能、Ambience Low Pass、Ambience Delayについて。

Ambience Low Passは、Ambience Gainを上げた時に空間を自然な感じにしたいなら4000Hzあたりまで下げるとか、細かな味付けに有効です。

Ambience Delayはちょっと難しいです。

アンビエンスだけにディレイを掛けることで初期反射を調整するようなもののようですが、最大50msまでのショートディレイが直接音との音量バランスを調整出来ないまま掛かってしまうため、ほとんどの設定で定位が無くなってしまいます。
例えば左に定位させた音にAmbience Delayを掛けると、アンビエンスなので対面からもディレイ成分が再生され、その結果左にあったはずの音がセンターに定位してしまいます。
最大の50msにすれば、何とかステレオ感あるショートディレイの音になりますが、それ以外に使い道がわかりません。
アンビエントにディレイを掛けるなら、直接音とアンビエンス成分の音量バランスを調整できたり、各スピーカーごとにディレイ値を設定できる、あるいは空間的にランダムな反射となるようアンビエントが計算されるなど、Ambience Delayに関しては早い段階で改善が必要と思いました。

先ほどのジングルに50msのAmbience Delayを掛けた音を最後に聴いてください。
定位は崩れますが、音数が増える効果はあるので面白いです。








いかがでしたでしょうか?

立体的なスピーカー配置において空間を扱うプラグインはまだまだ少ないですし、立体音響作品を作っていて、特にヘッドフォンでバイノーラル作品を作る場合は距離感の出し方に手を焼いている人も多いと思います。
そんな時、Ambience Enhancer Standardを試してみてはいかがでしょうか?


NovoNotes
Ambience Enhancer Standard










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