2023/02/15

聴いて良し 作って良し 8ch Cubeの立体音響




8chキューブでの立体音響作品鑑賞会 [Cube: Immersive] がRITTOR BASEで始まりました。

ずっと言っていることですが、

”8chキューブは立体音場そのものを意識できる”
”Ambisonicsの特徴は5.1chや7.1.4chといったサラウンドフォーマットでは分からない”
など。

知っている人は納得ですが、知らない人は「どういうこと?」となる。
立体音場を知ってイマーシブと言っている人と、
立体音場を知らずにイマーシブと言っている人とでは、
目指せる空間表現に差が生まれます。

8chキューブのスピーカー配置は立体音響としては当たり前の最も標準的な配置です。
もしサラウンドフォーマットについて何の知識もない人が、「ここにあるいくつかのスピーカーを使って立体的に音を鳴らしましょう!」と言われたら、球体やキューブに配置して前後左右上下を均等に囲おうとするのが普通で、L/C/Rと並べ始める不自然な行動をとるのは映画や音楽の人だけです。


”8chキューブは立体音場そのものを意識できる”

これは聴くことにも作ることにも言えることですが、
まず8chキューブの中央に座って前を見ると、スピーカーが目の前にありません。
目の前にL/C/Rのスピーカーがあるので「そこから音が出る」あるいは「それを鳴らそう」という意識が働くのです。
目の前にスピーカーが無ければ自然と空間にある音をイメージしやすくなります。
そのため作品を聴く側は立体音場を感じやくなりますし、作る側も自然と空間に音を存在させようとするので、よりイマーシブな作品が生まれます。


また、8chキューブの均等なスピーカー配置には無理がありません。

DAWの画面上で音を立体的にパンニングさせたとき、あなたのUIは綺麗にその軌道を表示してくれることでしょう。
しかし、それを7.1.4chなど空間に均等配置されていないスピーカーで表現するための処理は複雑になります。
複雑になり無理をするのでスムーズに音がパンされなかったり、思い通りの軌道を描かなかったり、場合によっては音が悪くなる、と言ったことが起こるのです。

HPLもそうですが、余計なことをしない、無理をしない、当たり前のことを丁寧に行う、と言ったことをしていれば、おのずと音も性能も悪くはならないです。

8chキューブだと、パンニングであれば前後左右上下どの面に対しても同じ計算で処理されますから、UIの表示(=自分の意思)と出音が同じになります。
これはMixする者にとってとても分かりやすいモニター環境です。

これだけでも8chキューブの優位性は十分ですね。
スムーズにパンされ、思い通りの軌道を描き、音も良い、
より良いイマーシブ作品が生まれるのは必然です。


パンニングだけでなく、すっかりお馴染みとなったAmbisonicsも8chキューブが基本です。

マイク収録で考えると分かりやすいですが、各社から発売されている1次Ambisonics対応のA-formatマイクや、2次Ambisonics対応のマイクもそうですが、空間を4分割(あるいは8分割)して記録します。




それをスピーカー配置にあわせてデコーディングするわけですが、空間に均等配置されたスピーカーに対してデコードする方が計算に無理が無いのは明らかです。

これが実はちょっとの無理ではなく、実際音となりスピーカーから出力された際は、かなりの空間表現の違いへとなって表れるのです。

”Ambisonicsの特徴は5.1chや7.1.4chといったサラウンドフォーマットでは分からない”

8chキューブでAmbisonicsを聴くとどんな空間表現がなされるのか?
それもCube: Immersiveでは体験することができます。
全く違うので是非体験してみてください。



無理のない計算によって生まれる音場を、分かりやすくするため絵にしてみました。


こちらはDolby Atmosなどで使われる7.1.4chフォーマットです。
中層7ch、サブウーファー1ch、上層4ch





この絵は、音のカバーエリアを表しているわけではありません。
スピーカーの指向角はもっと広いです。
スピーカーから発せられる音によって作られる中央のリスニングポイントの状態を表しています。(正確な描画ではありません)


Top Viewを見ると、流石に中層に7chあれば、もれなく中央は前後左右ともに包まれますし、上層も4chスクエアで均等なのでバランスのよい音場がリスニングポイントで生まれている様に見えます。
Side Viewを見ると下層にスピーカーは無いのでちょっとバランスは悪くなります。
そもそも前後左右に比べて、上下のスピーカーが少ないので、DAWのUI上で描いた音の軌道を実現するには複雑な処理が必要そうですよね?



次は360 Reality Audioの13chです。
下層3ch、中層5ch、上層5ch





僕のブログでは槍玉に挙げられがちで可哀想な360 Reality Audio。でも事実なので仕方ないです。
前方の狭い範囲に上層中層下層に3台ずつの9台によって、前方が濃く後方との差が大きいリスニングポイントと言えます。
下層スピーカーも前方にしか無く、仰角は上層30度下層20度で上下感を出すのは苦しいですね。
DAWのUI上で球面に配置した音源を、このスピーカー配置で鳴らすのはかなり複雑な処理が必要、というか不可能ではないでしょうか?

なので360 Reality Audioの制作は、ヘッドフォンでバイノーラルMixすることをお勧めします。
360 Reality Audioの場合は、再生環境もヘッドフォンが主軸なので、バランスの悪いスピーカーでのモニタリングで制作する意味は無いと思います。



最後は8chキューブです。
下層4ch、上層4ch





リスニングポイントを見て分かる通り、前後左右上下すべて同じ濃さでバランスのとれた音場が見て取れます。(あくまでも理論上ですが)

実際には完全なキューブでスピーカーを配置することは少なく、仰角は少し抑えるのですが、それでもリスニングポイントのバランスはかなり良いものになります。

スムーズなパンニング、思い通りの音像軌道、音も良く、Ambisonicsのデコードも正確に行われる。
作りやすい、ということはそれだけ良い作品に繋がると思います。
実際に、8chキューブで制作したエンジニアさんはその優位性を口にします。


例えばその作品が、Dolby Atmosでしか納品されない。
その後も2次利用することがない。
そうしたことであれば7.1.4chなどのモニター環境で制作するのが間違いないのは確かです。

しかし、他のフォーマットも視野に入れていたり、インスタレーションとして使用するなど、様々な再生パターンを考慮するなら、立体音響作品として最も純度の高い8chキューブで作りマスターとしておく。
マスターは出来る限り良い状態で持っておく。
そして8chキューブから7.1.4chなどへ変換したり、インスタレーションであれば再生環境に合わせたりした方が、元の立体音場をできるだけ損なわずにリスナーへ伝えることが出来ると思います。

そもそも質の高い立体音響作品をということでしたら、8chキューブで作り8chキューブで再生するのが良いでしょう。


センタースピーカーが必要な作品であるなら、8chキューブにセンタースピーカーを足す、というのもありです。
それでもリスニングポイントの音場のバランスはまだ良い状態といえます。





今回の話を実際に確かめるために、
Cube: Immersiveで8chキューブの作品を体験してみください。


[Cube: Immersive]
8chキューブでの立体音響作品鑑賞会

8chキューブでMixし、神奈川芸術劇場KAATでも8chキューブベースのスピーカー配置でライブとインスタレーションを行ったROTH BART BARONの記事(サウンド&レコーディング・マガジン)

8chキューブでMixし、360 Reality Audioへ変換したTo Waters of Lethe制作記事(サウンド&レコーディング・マガジン)










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