2018/05/16

ラジオの3Dサラウンド放送 2

今回も、
藤本健のDigital Audio Laboratory
「プロ野球のラジオ生中継でリアルな3Dサラウンド! 制作現場を見てきた」
で取材していただいた、ニッポン放送ショウアップナイターでの3Dサラウンド放送についてです。
https://av.watch.impress.co.jp/docs/series/dal/1120234.html


球場ごとに異なる配置の既設マイクから、どの様に3Dサラウンド化しHPLによるリアルタイムバイノーラルプロセッシングを行うか。

前回も紹介した、東京ドームの既設マイク位置と3DサラウンドMixの関係図。



マイクは全部で8本。
それをL、R、C、SiL、SiR、Ls、Rs、TpFL、TpFR、TpRL、TpRRへ振って行きます。
以前はこうした標準のサラウンド配置では無く、内野、外野、など、オリジナルのスピーカー配置によるインパルス応答を作っていました。
例えば内野であれば、左右に開いて高さ的にはミッド。外野であれば、内野よりも中央よりで高さを上げ、距離も遠くすると言った具合です。
今はそれよりも、バランスの取れたスピーカー配置であることと、ミキシングエンジニアにも理解しやすいと言うことで、標準のスピーカー配置を採用し、音の振り分けで立体音場を作る様にしています。



画像の一番上、テープ上に書かれたのがマイク配置とそのch番号です。

そしてHPL Broadcasting System画面内、上段が同じくその入力chです。
各chの信号を下段のサラウンドchへ振り分ける訳ですが、その部分はUIに出していません。
本番中には触らないからです。
ちなみに入力の11chだけ文字を赤にしてありますが、これは実況&解説のchなので、誤って触ってしまい事故にならない様にそうしてあります。

読みにくいですが、テープの記述を見ると、ch3/4の外野スタンドマイクの音を、TpFL/R、SiL/R、Ls/Rsへ送っている事が分かります。
他球場には内野用のマイクがあり、その場合は恐らく外野マイクをLs/Rsに送ることはせず、内野マイクの音を使っていた事でしょう。


当然それぞれの送りのレベルは異なります。
そうして下段の各サラウンドchへ振り分けた後、レベル調整を行い3Dサラウンドのバランスを整えます。
それらはもちろんHPLのリアルタイムプロセッシングでバイノーラル化された音をイヤホンでモニターしながら行なっています。
モニターに使うイヤホンは僕の場合ULTRASONEのTioを使っています。


音もモニターしやすくチャンネルセパレーションも良い。そして装着しやすい。しょっちゅう付けたり外したりするので。
とにかく球場内の音は大きく、ヘッドフォンでは空間音響のモニターは出来ません。

歓声や場内アナウンスなどの音をノイズと呼ぶのですが、そのノイズと別にMixされた実況&解説の1chを合わせた、いわばHPL11+1としています。
センターchがあるのに、実況&解説をそこへ送らないのは、センターchに振ってしまうと声が遠くなり明瞭さが薄れてしまう事が理由です。
放送では必ず声は明瞭に聴かせて欲しいと言うリクエストがあるので、実況&解説用にはノイズ用センターchよりもかなり手前に想定された別のセンターchを作りHPL化しています。
実況&解説は間近に、歓声などフィールドは奥に、と言う音場を作っています。


HPL Broadcasting System画面右側下段には、NoiseとVoiceのグループフェーダーを用意し、試合中、常に実況&解説とノイズの音量バランスを調整しています。


その上にあるGain調整で最終的な音量を調整します。
試合開始前に、基準信号による出力レベル合せを行うのですが、実際に試合が始まってみないと、試合が盛り上がった時にどの位実況の声と球場の音が大きくなるのかが分からないので、ここも試合中に調整する他ありません。
出力段にはリミッターが入っているのですが、ダイナミックレンジは臨場感や立体感を作る要素でもあるので、むやみに上げて良いものではありません。

立体音場生成の仕組みはもちろん、そうした調整があって初めてエンタテインメントとして楽しめる音になるのです。
ここで誤解があってはいけませんが、ミックスやその他の調整をしているのは音の定位で楽しませる事を目的としているのではなく、リスナーに空間を感じさせる事を第一にしていると言う点です。
それが3Dサラウンドにはとても重要であり、ただ立体音響用のツールを使うだけでは不十分で、調整によりその上のレベルにする必要があります。

よって、こうした3Dサラウンド放送が標準化されるためには、ミキシングエンジニアの皆さんに3DサラウンドMixの面白さを分かっていただき、それに慣れてもらう事も必要なのです。


2018/05/13

ラジオの3Dサラウンド放送

先日、
藤本健のDigital Audio Laboratory
「プロ野球のラジオ生中継でリアルな3Dサラウンド! 制作現場を見てきた」
がAV Watchに掲載されました。
https://av.watch.impress.co.jp/docs/series/dal/1120234.html


音の仕事をしている自分とって、音だけで成り立っている放送メディアであるラジオは、色々とやりがいのある素晴らしい世界。
制作現場も手作り感があり親しみ深い。機材にしてもテレビ局にくらべラジオ局のスタジオはとてもシンプル。
だからHPLをすぐに試してもらえたし、そうした思い切った判断が楽しい番組を生むことになる。

HPLがニッポン放送さんの目に留まったタイミングは、FM補間放送、つまりワイドFMが始まるタイミングと重なっていました。
radikoだけでなく、電波放送もステレオとなれば、もうステレオ放送が主に成らざるを得ない。
一度はAMでもステレオ放送を始めてみたものの、すぐモノラル放送に戻って行ってしまったのに...

そうした中ラジオ局がワイドFMを推進して行くにあたり、「(今までよりは)音が良くなります」「ステレオ放送になります」ではあまりにインパクトがありません。
テレビのステレオ放送が当たり前になって何年経っているのか。音楽がステレオになって何年経っているのか。
だからHPLを提案し、「ステレオになります」では無く、一気に「サラウンドになります」にしましょうと。

ご存知の方は殆どいないと思いますが、2015年10月に始まった試験電波によるワイドFM放送内で、【HPL5】The Four Seasons( http://www.e-onkyo.com/music/album/unahq2005h/ )など数曲のHPL音源が放送されています。
自分の作ったHPL音源がラジオで流れる。即ラジオを買いに行き、放送日実際にHPL音源がラジオから流れた時は感動しました。
そして音質こそ落ちているものの、HPLとしての効果は落ちていない事を確認。
それがニッポン放送さんとのHPLを使ったラジオ放送のスタートです。


野球中継を3Dサラウンド放送するにあたり、まず問題なのは放送ブースが狭い事。
そのために最小限の機材でお邪魔する必要があります。
そして通常放送の技術や進行を大きく変えてしまうこと無くその中へスッと入り込む。
新しい試みを形にするにはハードルを下げないと。

よって球場の既設マイクを使い、手荷物程度の持ち込み機材で(実際電車で現場入りした)3Dサラウンド放送にしています。
もちろん3Dサラウンドを考慮したマイク設置、特別回線などの準備をすればとても素晴らしい音で放送出来ると思いますが、有る物を利用しちょっと工夫する程度でも、従来の放送と比較して飛躍的に楽しい音となります。
この事はリスナーの感想を集めると明らかになりますが、しかしやる前は「これでわかるだろうか?」と二の足を踏みがち。
何事も「やって見たら思った以上に楽しんでもらえた」となる事が殆どなのでどんどん挑戦すべきです。
作り手以上に聴き手は感動するもの。


記事中にもあるように、現在は僕が3Dサラウンドミキシングを行なっていますが、もちろんそれをしていては今後の進展はありません。

ニッポン放送さんの場合放送ブースの卓がDante対応なので、プロセッシングを行うPCに使用するオーディオインターフェースをDante仕様にすれば、卓とDante接続でセンドリターンが組め、システムは更にコンパクトになりますし、ミキサーさん自身が3DサラウンドMixを行なえる環境が整います。
後はミキサーさんに3DサラウンドMixの楽しさを知っていただき身に付けてもらえたら、すべての野球放送を3Dサラウンドで放送出来るはずです。




画像は、東京ドームの既設マイク位置と、3DサラウンドMixの関係を示しています。
もちろんマイクの設置位置や本数は球場ごとに違うのでMixも変わります。
サッカーもテストした事がありますが、全く異なります。
それを「大変」と思うか「楽しい」と思うかは熱意の問題ですね。


ラジオは音の文化です。
テレビはやはり映像がメイン。
ラジオの音はテレビより面白いものであって欲しい。


次回、3DサラウンドMixの所をもう少し話したいと思います。


2018/05/11

ブログ始めます

立体音響、立体音場、バイノーラル、3Dサラウンド、VR、Ambisonicsなどなど、
そうしたワードに関わる事、また今後携わる人のために、何か残しておきたいと思い。

ごく一部の人達にはためになるブログ、となる事を願います。

書くことはすべて20数年の経験にもとづく自説です。
なので、偉そうな感じになるかも知れませんがご了承ください。


久保二朗
ACOUSTIC FIELD INC.