2024/04/12

展示会における迷走の記録




最後に産業用バーチャルリアリティの展示会に出展したとき、アコースティックフィールドのブースの壁には「Art of 3d sound」とサインされていた。

アートとして作られた立体音響作品がどれだけ素晴らしいものか

今展示している同じ技術でここまでの立体音場生成ができるのですよ、というメッセージ。

今思うと企業で研究開発に従事する技術者に対しては、ちょっと高いハードルのメッセージの投げかけだったかもしれない。


同時に、アートでの立体音響をもっと広めたいという想いもあふれ出してのこのサインであったと記憶している。

それはもうその展示会の趣旨とは関係のない個人的な思考。



この年を最後にこの展示会には出展していない。

高額な出展料への費用対効果が薄くなってしまったのが最大の理由です。


この展示会、さらに5年ほどさかのぼった時代には、1台500万円クラスの立体音響製品をデモ展示するブースとして出展しており、その時は展示をきっかけに1台でも売れれば元が取れてしまう状況でした。 そのため高額でも出展できていた。


あとはVRを展示する企業がどんどん減っていき、その規模が縮小されて行ったのも出展しなくなった要因だった。



2013年のバーチャルリアリティ展
8chキューブとそのバイノーラルを試聴できる展示スタイル

iPadで音像を上下左右前後遠近に好きに動かしてもらうデモでした
TouchOSCによるOSC制御

翌2014年のバーチャルリアリティ展
ヘッドフォン試聴のみ
自由に聴いてもらい質問があれば奥に聞いてくださいという横柄なスタイル
左のテーブルでは声のバイノーラル定位を聴く基本的なデモで
右のテーブルではバイノーラル化された作品が試聴できる

さらにもう一つ、2015年に第1回の先端コンテンツ技術展が開催され、そちらに出展した方が良いのでは?と思ったのも要因。


その年視察目的で展示会場へ行ってみましたが、音の「先端コンテンツ技術」と呼べるようなものを展示するブースは一つもなく、これが音の先端だと思われたくないと無性に腹が立ったのを覚えています。


そしてすぐ次年の先端コンテンツ技術展に展示することを決断。

真の「音の先端コンテンツ」をみてもらおうと、従来の技術展示では有り得ない(というかこの先も無いであろう)サウンドアートの立体音響作品の展示を行ったのでした。

本当に作品のみ、先端コンテンツのみの展示です


1日に数千人のブース訪問者を見込み、新製品新技術の発表や新規顧客獲得などを目指す企業展示の場で、1名づつ10分の作品鑑賞、1日30名、3日間の展示会期間で合計90名だけのための展示。


90名に圧倒的な音の先端コンテンツを知ってもらったところで、果たして何かが変わるでしょうか?

恐らく90名を最高に楽しませただけだったと思う。

冷静になれば、もっと他の方法が有効であることは誰でもわかること。

終わってすぐ、この出展のための広告宣伝費で、1か月間個展をした方が良かったなと。

やる前に気付けよという話です。

当然その年1回きりの出展でした。


そしてInterBEEへ。


そのタイミングはプロオーディオ業界が「イマーシブオーディオ」とか言い出したころです。


サラウンド、立体音響、マルチチャンネル、イマーシブ、これらを使い分ける自分にとっては、コンテンツが何であれちょっとスピーカーが増えただけで「イマーシブ」なの?とか、バイノーラルの音楽制作をしたことも無くHRTFの個人化がマストという受け売りを信じてしまうプロオーディオ業界に対し、ここは怒りではなく、危惧しての気持ちが湧いてしまい出展となっていくわけです。



各社がDolby Atmosなどを意識しての7.1.4chを軸にイマーシブオーディオをデモする中、フォーマットでは無く立体音場そのものを知ってもらうためのデモとして、ブースに8chキューブ配置のスピーカーセットを設置し体験してもらいました。



2017年のInterBEE


8chキューブによるデモ
機材構成は確立されている


このスタイルでの展示は2017・2018年と2年間続きます。

2018年はより音をちゃんと聴いてもらおうと、部屋を作り静科パネルとVicousticも設置し久しぶりにArt of 3d soundのサインを掲げてのデモでした。


果たして、メジャーフォーマットに対するアンチテーゼとしてのデモは伝わったのでしょうか?

当時ブースで体験した人居ますか?



2018年 InterBEE


吸音+拡散で音場をできるだけ整えた




2019年はプロオーディオ業界もイマーシブオーディオの制作が盛んになり始めたので、アコースティックフィールドでは、より実践的なデモへとシフトし、誰もが馴染みのある5.1chを使い、そのステムをHPLバイノーラルで試聴するデモに切り替えています。
バイノーラルMixあるいはモニタリングはこういうことですよ、といった具合に。





この頃また、この広告宣伝費はもっと有用な使い方があるのではないかと思い始めてしまいます。

そしてコロナ騒動となり、それからInterBEEには出展していません。



その後は費用の使い道、プロオーディオ業界に対する勝手な危惧、イマーシブというか立体音響制作に対する提案、それらの一つの形として展示会へは出展せず、御茶ノ水RITTOR BASEでの「立体音響ラボ」「Cube: Immersive」といった独自企画へと繋がっていくわけです。




このように、2010年前後のバーチャルリアリティ展示を除き、それ以降直接的に利益を見込めるような展示を一切行っていません。

会社としたら酷い話です。

自分個人としては無駄遣いだったと思うことの無いようにはしていきたいですね。

と言っても自分でどうにか出来ることではないのですが。


この様に振り返ると、やはり展示会は2010年前後の時の様に、利益を見込んだ展示にすべき場であることは明白ですね。
(当たり前だ)


この1か月間、2024年InterBEEへの出展を検討していましたが、今のところ決断する決定打はありません。

恐らくその費用は他に有益な活用の場があることでしょう。