2020/04/01

サラウンドの座席配置の考え方



スピーカーを使用したマルチチャンネル再生のイベント等で、座席を隅までパンパンに並べているのを見かけますが、通常のチャンネルベースで制作された作品の場合、正しく音を聴けるのは中心の1席だけです。
それは22.2chのようにスピーカー数が増えようとも一緒です。

そうならない様に色々と工夫をする訳ですが、すでに完成された作品を再生している場合はそれも難しく。
とは言え客席の中央で音を確認して、あとは席を並べるだけで「端の席は仕方ない」と考えてしまうのは、作品に対してのリスペクトが掛けていると思います。

自分の関わる作品もやはり中心が最も良い席ではありますが、座席位置による極端なミックスバランスの変化が起きない様に注意を払い、中心から端に行くに連れ少しずつ音が変化する様な調整を心がけています。
そして作品が成立しなくなるほどミックスバランスの崩れる位置には座席を設けません。
設けなくてはいけない場合も「いやだー」と主張します。

当然中心と端とではミックスバランスはかなり変わりはしますが、その席なりに楽しめるサウンドにすることは出来ます。

これはミックスの仕方とスピーカー配置、音響調整など総合的な工夫となりますので、それに関わる全ての人にその意識が無いと達成されません。
そのことについては簡単に書ける内容では無いので、今回はサラウンド作品の試聴位置について考えたいと思います。


スピーカーに囲まれた中心が最も良いリスニング位置と言う考えは皆さん持っていると思いますが、謎なのがその中心から椅子を横に並べ始める行為です。

4席であればこの様に。




8席の場合はどうでしょうか?
前列4席、後列4席、と並べられていると思います。



なぜ?

自分の場合、4席ならこう。



8席ならこう並べます。




均等にスピーカーが4隅にあり、そこから同じ音が出ていたとするなら、すべての音が同じ大きさで聞こえるのは中心です。
そして放射状に広がりを見せると思いがちです。

しかし人は左右に敏感です。
左右のズレは誰でも気になるもの。
そして前後は左右に比べて曖昧だったりします。
なので、出来る限りリスニングエリアは横に広げない方が良いです。

また広がっていった先にスピーカーが有るか無いかも関係します。
出来るだけスピーカーには近づかないこと。


インビジブルシネマ「Sea, See, She - まだ見ぬ君へ」evala(See by Your Ears)を例にとると、この様になっていました。


120席の配置


中心の最も良い位置から、外に行くにつれて徐々に変化するようにサウンドを調整したいので、座席はスピーカーに対し均等な距離を保つことが重要です。


スピーカー配置に対するサラウンドの有効な範囲のイメージ



さらに言うなら、50名に対し100席用意するのも良くありません。
何故なら端に座りたがるからです。
ちゃんと聴いてもらいたいなら、なるべく無駄な椅子を置かないこと。

座席が多すぎた場合、安易に前後の1列を削ろうとせず端を削ります。

まずは両端1列


両端1列を削り100席に


次に削るのはここ。


角の席を削り88席に


実はSea, See, Sheの上映では、少しでも良い音体験をしてもらおうと、スタッフにより毎回椅子の数を調整し対応していました。
そうしたチーム一丸となっての作品を扱う姿勢は本当に素晴らしいと思います。

今後椅子を並べる際は、作品の事、聴く人の事をよく考え並べてみてください。




ここまで考えたとしても、端になればなるほど左右のバランスが悪くなることに代わりません。
席が前や後ろになっても出来る限りセンターの軸に近い席に座った方がバランスの取れたサウンドを楽しめます。


こうしたことを改善していく一つの考えとして、「センタースピーカーを重視したサウンド作り」があります。
これは音響だけでなく、作品としてセンタースピーカーを中心に考えて作ることからはじまります。

図のaの位置に座った場合、L/Rのステレオ作品ではセンター定位であるはずの音がLスピーカー寄り聴こえてしまいます。
ボーカルやベース、キックと言ったサウンドの芯となる音がLスピーカー側へ寄ってしまうことで、サウンド全体が左よりになってしまう。
その上でどんなにスピーカーをサラウンド配置したとしても、左寄りのサウンドであることには変わりありません。


サウンドの芯がLスピーカー側へ



しかし実際にセンタースピーカーを置き、そこからセンター定位の音を出せば、どの座席から聴いてもセンターは同じ1か所に固定されます。
当たり前ですね。


サウンドの芯をセンターへ


しかしこれが当たり前に出来ないのです。
普段2chステレオでしか音楽制作をしていなければ、センタースピーカーを核としたミックスをする経験はありません。
センターチャンネルをボーカル専用に使ったり、L/Rの音を多少混ぜたりと言った程度の使い方をしがちです。

その一つの理由が、センタースピーカーから音を出すと、センター定位が明確になり過ぎ左右に少しでもずれると気持ち悪くて動けなくなるのです。
音場の中心で聴けるなら、センタースピーカーは無い方が良かったりするのです。

しかし、センタースピーカーの軸上に座れない人が多い場合、逆にセンター定位を明確にした方が良いと思います。


サウンドの芯を音場のセンター軸に据え、そこから左右そして後方へと音を広げる意識でサラウンドミックスを行えば、より多くの人に同じサウンドイメージを共有してもらえると考えます。
もちろん左右のバランスは聴く位置によって異なりますが、センター定位がきちんとあるためセンター+サラウンドの音場となり、違和感はかなり軽減されます。


あくまでもセンター定位を軸としたサラウンドミックス


これらは一つの案ですが、ライブ、パブリックビューイングはもちろん、サイネージに至るまで、そうしたサウンドのサービスは当然の様に工夫されなければならないものだと思います。



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